7月22日(土)
【UNI】昼前に家を出て、車でサロマ湖へ向かう。一時間ほど走ると、とつぜん道の向こうに湖が見えてきた。それまでの広い広い、北海道らしい景色に、だいぶ慣れてきた。サロマ湖は海にうっすらつながっている浜名湖みたいな湖で、道の駅に着いて外に出ると潮の香りがする。
道の駅でとれたてとうもろこしが売られていたので、ハムちゃんが3本買って車につんだ。すぐに車に乗らずに、道の駅裏の小高くなったところまで散歩してみる。ウッディなホテルがあって、ロビーを見学させてもらう。「ここは○○年に破産したんですけど経営者がかわって…」と、スタッフさんにホテルの経営状況から教えてもらって、少々面食らう。でも雰囲気はいいし、レストラン利用だけでもできるようなので、お世辞ではなく「また来ます！」と言って出てきた。車に乗り込もうとすると、大きな蜂がうちの車に群がっている。二匹、いや五匹？！ 「とうもろこしや…」とハムちゃんがつぶやいた。彼はすでに数回蜂に刺されているので、次刺されたら命がラストである、と毎年蜂を異様に怖がっているのだ。大ピンチ。
蜂ってとうもろこしの香りに寄ってくるの？ 車の中に入れておいたのに？
どうにもこうにもできないので道の駅のスタッフさんに相談したところ、殺虫剤を貸してくれた。厳冬期用にエンジンスターターも付けているので、外からエンジンをリモコンで作動させて、蜂をなんとか追い払うことに成功した。あわてて車に乗り込むと、とうもろこしの青い香りが充満している。人間にとっては惹かれる香りではないけれど… あんなに群がられては命のピンチなので、ナイロンのエコバッグをもう一枚とうもろこしにかけて、厳重に閉じ込めた。
この時点でまだサロマ湖に近づいていない。蜂による大ピンチですっかり気持ちを削がれてしまったので、湖に近いところまで行ったものの、結局すぐに帰宅することにした。
【クララ】土曜だけど休日。ゆっくり起きて、昨日TOUTEN BOOKSTOREさんで買っておいたパンを食べた。母から「きゅうり、トマト、あります」とLINEが入る。届けてもらうついでに、父の運転で大曽根駅に送ってもらった。父の耳がまた遠くなったのか車の走行音のせいなのか、大声で話さないと聞き取れないようだった。そろそろ免許証を停止した方がいいかもしれない。一個数円の釦を売って真面目に生きてきて、最期が交通刑務所なんて嫌だ。目的地は本ひとしずくさん。店主の綾さんが、マスクを取った顔を初めて見たと言って驚いていた。マスク美人って、陸（おか）サーファーに似てない？ るるるるん2がスタートしてすぐにコロナ禍に入ったから、本を出したご縁で知り合った人の多くは「はじめまして」なんだよな…と、時代を感じた。UNIの『たたかうひっこし』は平積みして下さっていた。いつも無理を言って、買いたいZINEを仕入れてくれて、本当にありがたい。「この本買うならこの本屋！」と、ひとしずくさんは思わせてくれる。仮設トイレの状況と、トイレアンソロジーの進捗を聞くなど。
帰りの名鉄電車は寒いほどキンキンに冷えていて、私鉄の心意気を感じた。
ユニモールの星乃珈琲店でスパゲティとアイスコーヒー。ここのスパゲティーは栄店よりにんにくがきいている。スパゲティの量は、今日の腹具合を満足させるには物足りなかった。取り急ぎ、る日記を書いたのち、斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』をぐいぐい読む。この本、もっと早く書いてほしかった。2時間ほどねばっているうちに眠気に襲われる。21時過ぎに始まる映画は物静かで寝落ちする恐れを感じ、賑やかそうなミッションインポシブルを観ることにした。スレスレシーンの連続で、ずっと歯を「いーーー」っとくしばっていたらしく、顎が疲れた。
【かとう】日立へ。今回日立に行くことになったのは、Yさんとの出会いから始まる。Yさんは春に行われたタソガレ展にひょっこりやってきて、ほとんど知っている人しか来ない中であの人は誰なんだ？？と佐々木未来さんとざわめいていたところ、Yさんは私の著書『小さい本屋の小さい小説』を気に入ってくれて、タソガレ展にもはるばる日立からやってきてくれたのだった。私は、会ったこともない人が小説ひとつの力でそんなに遠方から来てくれたことにいたく感動し、どうやらYさんは日立のオキーフというカフェを拠点に何やら活動している人らしいなど、SNSでつながってみるとこのオキーフというカフェがめちゃくちゃ気になり始めて、すると滅多に見ないInstagramで、このオキーフでYさんが読書会をするという告知が目に飛び込んで、これはもう行くしかないと、旅の手はずを整えたのだった。
まず特急に乗るということをあまりしたことがなくて、ちゃんと乗れるのかとか、せっかくだから駅弁を食べるために昼ごろの電車に乗ろうとか、気は逸るだけ逸り、品川駅に到着したのは出発の1時間半くらい前。さすがにもてあまして売場を端から端までぐるっと見て駅弁の目星をつけ、カフェに入って少し小説を書いた。そう、小説を書きましたよ！ひさしぶりに執筆をしたよ！小説を書いていると、少し大きめの地震が来た。
それからYさんへの手土産に鳩サブレを買い、駅弁（サーモンハラス弁当。私はサーモンハラスという文字を見ると買わずにいられない）を買い、無事に特急に乗った。知らない場所に行く知らない電車は本当に楽しい。駅弁は東京を出ないうちに（上野あたり）食べ終わってしまった。美味しかった。つばめグリルのハンバーグ弁当じゃなくてよかった。途中からサブスクでJ-POPのおすすめプレイリストを聴いていた。
日立は、聞いてはいたけれど、構内から海がどかーっと見渡せて、スケールの大きなものすごくきれいな駅。駅で海のにおいがするのは私には驚きだ。読書会の時間まではずいぶんあったので、少し日立駅周辺を散策、と思ったけれど、東京ほどではないけどさすがに暑い。早々にカフェに退散してそこでは日立の美味しいお店情報などを調べた。珍しくTwitterもたくさん見た。あとはまた少し執筆。旅先で小説を書くのは意外といい。
日立駅から15分くらい歩いていよいよオキーフへ。Instagramで見ているオキーフはとても素敵で、実際こんなに素敵な場所があるのか？と疑いたくなるほど素敵なんだけど、実際に本当に素敵だった。お菓子はキャロットケーキと迷ったけど、やはりここはチーズケーキ。オキーフのサムネイルにもなっているくらいだから、これは絶対食べないとと思った。読書会に集ったのはYさん含め7人。今回の読書会は「はじめての読書会」ということで、読書や読書会へのハードルを低くしたい、もっといろんな人に本を手にしてもらいたい、読んでいる冊数で本への愛情や経験値をはかってほしくないというYさんの願いが込められたものだった。私もこの一ヶ月体調を崩して、まったく本を読めなかったこともあって、こういうアプローチはとても優しく素敵なものに思える。好きな本はたくさんあるけど、そういう意味では持っていく本をとても悩んだ。悩んだ末に、私が選んだのは益田ミリさんの『今日の人生』。読書経験値が浅くても、あんまり読書なんてする気分じゃなくても、誰でも読めて、何かがストンと落ちてくる、そんな本だと思ったから。
みなさんの紹介してくれた本も、興味津々。なぜその本なのかという、その人の個人的なサイドストーリーを聞けるのが楽しい。これは読書会の醍醐味だと思う。オキーフだからか、Yさんの人間力か、集まった人たちがみんな仲良くなりたいと思えるような人で、この場限りでお別れしてしまうのがもったいなかった。小説を書いているという大学生がいて、ずっと書いてくれるといいなあと思った。プロでデビューしなくても、そういうこととは別にやっていけるというこの時代に生まれたのだから、書きたい人は書かないと損だということをもっと伝えたかった。Yさんが私と未来さんの『タソガレ』を紹介してくれて嬉しかった。Yさんは、『タソガレ』を読んだあとにディズニーランドで同行者とはぐれてしまったそうで、ちょっと不安になったと言っていた。
日立は遠いけれど、来てよかったとしみじみ思いながら、参加者の方がありがたいことに車で駅まで送ってくださって、日立駅へ戻った。ホテルはどこへ行っても安心の東横イン。東横インが大好きだ。荷物を置いてから晩ごはんを食べに行く。最初は居酒屋みたいなところにしようと思っていたけど、なんとなく一人で入りにくそうなところばかりで、結局教えてもらったサングリアというレストランに行った。ハンバーグやパスタやピザがある、懐かしい雰囲気の洋食レストラン。しかも私の大好きなペスカトーレがあり、見たこともない破格のお値段（900円台）だった。嬉しくなって、どうしてもアルコールが飲みたくなった。おあつらえむきにグラスビールという選択肢がある。あとはホテルで寝るだけだと思って、思い切って注文した。1ヶ月ぶりに飲むアルコールは、意外なほどすーっと体に染み渡って優しかった。もう病気は終わり。完全復活だ。
帰ってお風呂に入って、部屋に寝巻がないことに気づいた。ホテルの貸出品やアメニティの説明を読んでも、貸出しているという記述がない。ないのか？まったくないのか？有料でもないのか？仕方なく、裸で寝た。
文芸ユニット るるるるん
新刊『るるるるんvol.4 ー付箋ー』発表！
付箋小説・旅日記・座談会などもりだくさんです。
『るるるるん vol.3 ー鏡ー』も発売中。
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