lulululunlulululun’s diary

文芸ユニットるるるるん。 UNIとかとうひろみは3月クララと走りだす

ベリショーズ vol.10 発表を祝して!

まずはベリショーズの編集のみなさん、作家のみなさん、vol.10おめでとうございます!10号を出すって、とんでもなくすごいことだと思います。私たちるるるるんは今、やっとvol.4を作っているところ。たった4冊のるるるるんんでしたが、いろんなことがあり、vol.10まで続けるつもりではいるけれど、それが本当に実現できるかはわかりません。そんな不安を抱くほどに、10号ははるか未来。それをベリショーズは一歩一歩着実に、叶えてしまった。もうこれは尊敬でしかありません。お互いへのリスペクトや距離感、書くことへの情熱、いろんなものが奇跡的なバランスで融合して、vol.10が生まれたのだと思います。でもベリショーズにとって、これがただの通過点でしかないこともわかります。ベリショーズが止まることはないからです。こんな強靭な船を私は知りません。さて今回のテーマは「町」。とても普遍的なテーマなだけに、作家陣の筆力も問われるところ。私たちるるるるんも、かりそめにこの船に身をおいて、少しの間クルーズを楽しもうと思います。それでは、お手並み拝見です。

「ボクのまち」椿あやか
泣く子も黙る椿あやかさん。町の描写、ものすごく楽しい!椿さんも楽しんで描かれたのではないかと思われる、細かい設定の数々。読んでいると具体的なイメージをもって風景が展開されます。そして、ああ!そうだったんだ!となるラスト。楽しさと意外性と。さすがです。今回も何人の泣く子を黙らせたんでしょう。

「卓球屋さん/あるいは少年少女たちの町 」undoodnu
好きだなあ!この不条理ナンセンス感。筒井康隆ショートショートSFみたい。なんですか、卓球屋さんて。スポーツ用品店、百歩譲って卓球用具店、ならまだしも、卓球屋さんて。その発想どこから来るんですか(褒めてます)。そして後半戦の小説は、え?え?と。undoodnuさん、人を化かすキツネみたいな作家さんだな!好き!

「記憶をひとくち」 rantan
rantanさん、ものすごくうまい作家さんだなあと思いました。すごく淡々としてるんだけど、なんとなく、小説が終わるまで呼吸を止めてしまうような、じっと見守るように読んでしまうような佇まいの小説なんです。ショートショートなんだけど、そこから繋がる大きな物語を秘めていて。長編も書かれたらかなりすごそうな作家さんです。

「初めて」 田辺ふみ
こういうショートショートっていいなあ!ショートショートなのに濃密な、なぜこれをこの文字数で書けた?!みたいな作品も大好きだけど、こういう風通しのいい、ショートショートならではの作品て、意外と貴重。ちょうどショートショートが読みたいときにこんな作品に出会えたらカフェで一息入れたみたいな気持ちになるんじゃないかな。

ドリームズ・カム・トゥルー」 ロッサ
ロッサさん、トリッキーなようで素直なような、いつもこの方の書くものってどう受け止めていいかわからない、妙な肌触りを感じます。それがロッサさんの強みであり、作風なんだろうなあ。お布団の中で、最初からもう一度読み直したくなります。何か、見落としているような気持ちになるのです。

「恋のアディショナルタイム」 のりてるぴか
うわー!SF&スポーツ&恋ですよ!奥さん!この組み合わせ、実は腕がないと書けないんじゃないかと思うんですよね。ショートショート教室の先生が書いたのではないかと思うバランス(もしかして本当にショートショート教室の先生なのかな?)。「ショートショートを書いてみろ」と誰かに命令するとき(いつやねん)、お手本として渡したい一作。

「星を降らせた泥棒 feat.恋する町の皆さん」 10101298
染夜工場なんて10さん、ロマンチストだね…実はめっちゃうまいしね…と、ギャップ萌えしながら読み始めたら……くっっっだらね〜〜〜!!!まじでめっちゃ面白いんですけど。最高最高。10さん作品集あったら私はすぐに買ってサインを求めますよ。こんなにくだらないのに小説として無駄に筆力!10さんファンになってしまうわ。また10さんの出てくる小説が読みたい!

「スナックおいけて」 右左上左右右
10さんの体験記ですか…?と思ったことは10さんには内緒ですが。ちょっと昔話や民話にありそうなスタンダードな物語を現代風にアレンジするのに大成功してますね。右左上左右右さん、さすがの安定感!スナックっていうのが、なんだかノスタルジーを感じてまた良いです。それにしても900万、カードで払えるのすごいな!

「400字の『町』物語〈全7話〉」 豊丸晃生
落語テイストなチャキチャキの落ちを用意した作品と、最後にホロリとさせてくる作品、全7話!ひとつのお題でこれだけ書かれるの、脱帽です。お題をもらっても作品のアイデアが浮かぶまですら数ヶ月かかる私は、爪の垢をいただきたい。中でも私は「幽霊の闘い」がお気に入り。

「水色のオルゴール」 ことのは もも。
ことのはもも。さんの名前を見るとなんだか手を振りたくなってしまうアタクシ。なんだかほっとするんですよね。素敵な作品がこれから読めるぞ!という期待感で。期待はやっぱり裏切られませんでした。描写が本当に美しくて丁寧。さらさらーっと文字を追うだけで、場面がしっかり想像できる。本当に上手なんだなと思います。清涼剤のような作品。

「昔からの友達」 綿津実
ショートショートらしからぬお話なのですが、むちゃくちゃ好きです!クッキーの描写もすごくいい。私(かとう)、何を隠そうクッキーモンスターの異名を取るほどのクッキー好き、自分で自分にクッキー缶をプレゼントすることもしょっちゅうあるほどなので、クッキーとかクッキー缶とか、個人的にもテンションが上がります。(ここからネタバレ)イチョウのキャラクターがとてもいい。元気か、ってどんな汚い字で、渾身の力をこめて書いたのか、かわいすぎて胸が締め付けられるし、それがちゃんと届けたい人に届いている奇跡がもう優しくて。素敵な作品でした!

「誰がために牛は啼く」 秋田柴子
ベリショでは秋田さんファンを公言するワタクシ(かとう)。否が応でも「秋田さんだー!」とテンションは爆上がりです。で、やっぱり秋田さんの作品は面白い。まったく裏切らない。小説として強いというか、隙がなくて、ちょっと不穏なテイストも私(かとう)の好みのドンピシャなんです。ベリショ随一かとうの偏愛作家さんの傑作がまたひとつ読めました。

「タイムカプセル」 UBEBE
あああ…これは長編SFとして生まれ変わらせたら傑作になりそうな予感がしますね。タイムカプセルもので私はこういうパターンを初めて見たけど、実はずっと定番としてありそうな、普遍の面白さがあるなあ。これをショートショートで読むのが、とても贅沢に思える作品です。

「回転」寿司」 makihide00
面白ーい!寿司屋の大将と中年の客がマグロでループっていうのがなんとも微笑ましくて、そのループを断ち切る立ち回りも面白くて、こういうのさらっと書けてしまうmakihide00さんはまさしくショートショートの手練れだなあと思います。最後のオチもなるほど!と。あと寿司の描写が妙に美味しそうなのもポイント。

「やっきょくのいちにち」 高野ユタ
薬局に強盗かと思いきや、実はその薬局で扱っているのは違法な薬と思いきや、ヤクはヤクでも…というお話。ころころと意外なほうに転がって、いやトミおばあちゃんそうだったんかーい!とびっくりしているうちに主人公のぼくで物語を静かに置いて終わる。起承転結がめちゃくちゃ巧みなさくひんです。そりゃ、高野ユタさんだもの。

「ガチ公園」 ぱせりん
素晴らしい!ショートショートのお手本のような作品だと思いました。普通の小学生のありふれた日常かと思いきや、それがどんどんひっくり返されて伏線が回収される。こういうのを読んで、ショートショートって面白い!もっと読みたい!となるんだろうなあ。オチのない話ばかり書いている私(かとう)もとても勉強になります。そういう意味ではショートショート初心者にもぜひ読んでほしい。ぱせりんさんは、SSの伝道師ですね。

カメムシのマーチ~とある男と四つの話~」 壬生乃サル
にぎやか!あの人があの人で、この人がこの人……と、ちょっとだけベリショの人たちがわかってる私(かとう)はにやにやしながら読みました。壬生乃さんはショートショートとベリショを愛しているんだなあ!クセのある人たちを登場させながらも、どこか夢見心地で知的で品がある。それがベリショの世界。それを象徴するような作品です。

「インスタント喫茶」 たけなが
茶店て、たぶんあらゆる創作物の恰好のネタどころとなっていると思うのですが、こういう発想ってまずないんじゃないでしょうか。ラストの余韻もすごく良かった。それにしても「五連勤はキツイ」。これ真理ですよね。この一文を読んだときは、心の中でスタンディングオベーション

「喫茶 réunion」 すみれ
こちらも喫茶店のお話。なにやら青春ラブストーリー的なお話と思いながら読み進んでいくと……涙腺崩壊です。ネタバレになっちゃうけど私(かとう)はこの名前の猫を飼っていたことがあるんですよね……。私にもいつか喫茶 réunionのメッセージカードが届かないかな。ちなみにお店の名前は「再会」という意味なんですね。素敵。

「コインランドリー」 イチフジ
トリッキー!めっちゃ楽しい!!この○○たち、愛社精神に溢れかえっているように見えるんですけど、めっちゃブラック会社なんですよね。そのあたりが皮肉が効いてる!缶詰と一緒にベルトコンベアで、ってすごいな。シュールなアニメで見てみたいような大人メルヘン。大好きなせかいかんでした。おみごと!

「ねこの子」 むう
ああ…うまいなあ。もう、うっとりですよ。私はEテレでやってる「怖い絵本」のファンなんですけど、絶妙に奇妙なアニメーションで映像化したのを見たくなるような作品です。ひとつひとつの言い回しもさすがで。私はすごいなあと思うインディーズの作家さんを見ると、「なんでこの人、プロの小説家じゃないんだろう?こういう人を見つけて売り出すことのできない出版社って?」と思ってしまうのですが、むうさんは確実にその一人です(まあむうさんはほぼプロですが!)。シリーズものとして続いていくのもとても楽しみです。

「街街」 たらはかに
まずはたらはさん、いつかお目文字しましょうね(かとうより)。しかし(何がしかしなんだ?)、うまい。うまいよー。メタで誤魔化されている、という小説ではないんですよ。複雑な構図や伏線を、ものすごくきれいに回収している。たらはさんはむちゃくちゃうまい作家だというのは知っていたけど、いつも目にするSSより少し長めの本作、手腕をこれでもかと見せつけられた感。これはもう絶対ご本人にお会いしないとね!

「事故物件」 さささ ゆゆ
素晴らしい!!!これ、すごいですよ。SSではない小説を書く私からすると、これでSS書いてしまうの、もったいないというか、長い小説を書いて新人賞に応募しましょうよ!と思ってしまう。もちろんアイデアだけじゃなくて、小説の技術としてもさすがです。これね、アシモフとかディックとか、そんな大作家に大金で売れるんじゃないかと思うアイデアです。ささささん、何食べたらこんなすごいこと思いつくの?やっぱりあの絶品ガラムマサラをありとあらゆるものに振り掛けて食べてるの?

「ハンナさんの日」 新出既出
迷宮みたいな言葉をかきわけて進んでいく、これはとても美しくて不穏な詩のようでありながら、何かそれとも違う、文学としか言えない硬質さ。SSにはこんな手法もあったのかと目を瞠らさせられます。意味をわかろうと目を凝らしても、振り回され、放り投げられて、どこにも辿り着いていない自分を発見して、気がつくと私は猛烈に感動していました。埴谷雄高「死霊」を初めて読んだときのことを思い出しました。すごい。言葉があればどこにでも行ける。そんなことを信じたくなる、とんでもない傑作です。ひれ伏す。

「噂話」 ハナヅキアキ
ああああ、なるほどおおおお。こういうの、好きです。SSを読みたいと思うときに求めていたものがちゃんと書いてある。足を掬われて、そして少し怖い。あの女の人はいったい……?と考えているうちに、まったくノーマークなほうでの見事な着地。他の人もそうですが、SSの人、器用すぎますよ。私、こういうきれいなかんじ、全然書けない。さて、それであの女の人は……?

「焼鳥遊戯」 そるとばたあ
はいはいはいはい!来た来た来た来た!泣く子も黙るそるとさんの登場だよ〜!ベリショの福山雅治だよ〜(と、かとうが勝手にそう呼んでいる)!そるとさん登場のとき、いつしかマツケンサンバが脳内に流れるようになったかとうです。さて作品は、そるとわんだーらんどだーーー!そるとさんは世界を創り出すのが本当にうまい。小説って少し暗い設定になりがちなんですけど、そるとさんに限っては絶対にそんなことなくて、小説の中くらいみんな幸せにっていうあたたかいものを感じる、そんなところも大好きです。それにしてもおなかすくなあ…。反則技ぐらいおなかがすく…。今すぐ焼き鳥が食べたい…。しかしタクシーの鶏さんは、仲間が食べられている職場で複雑な気持ちなのでしょうか?

「オードリー、アビスのよちよち大捜査線」 風月堂
探偵、神隠し……わくわくしますねえ。しかもそこは風月堂さん、普通の探偵じゃないんだから。そしてお話も、お話の結末も、本当にかわいらしくて。ほっこりするんですよねえ。ベリショってそれがすごく特徴的で、とっても暖かくて優しい作品が多い。それ、意外と稀有なことなんじゃないかなと思うんです(るるるるんの不穏番長かとうにはない要素すぎてとても尊敬します)。気品すら感じますよ。こういう作品をもっともっと書き続けていただきたい!

「境界線」 渋谷獏
獏さん。なんとなく背筋が伸びて、正座して読ませていただきました。筒井康隆っぽいSFで、先がどうなるんだろうと一番気になった小説かもしれません。さすが、読ませます。最後までグイグイ引っ張って、この結末は、あー!やっぱり筒井康隆でしょ?獏さんの正体、そうなんでしょ?むちゃくちゃ面白かったです。額のしるしの仕掛けもSFチックでとても好き。

「花がたみ」 創樹
創樹さん、植物のことで質問があったらすぐに連絡しようとこっそり頼りにしています…。さて小説。創樹さんは言葉がとても豊かですね。すごく繊細な言葉をあてはめて、レース編みのように小説を編み上げている。たぶん読書量も半端ない方なのではないでしょうか。そしてそのものすごい量の知識をぎゅっと凝縮して、贅沢な希少部位だけで小説を書いているような。あらためて創樹さんの凄みを感じる作品でした。

「そしてパン屋へ」 夕辺歩
こういう発想ができるのが、SSの手練れ感ですね。あれれ?と思うまに、語られる主がどんどん変わっていく。これ作品を書き始めたばかりの人にはできないテクニックだと思うんですよね。そこはさすが夕辺さん!と拍手を送りたくなります。そしてラストの見事な着地。派手な演出も登場人物も出てこないけど、すべてに目が行き届いて、一人一人を尊重して描いていく夕辺さんの作風に、リスペクトを感じます。

「活力朝礼」 ひでまる
ある会社の朝の風景を、写真でパシャリと切り取ったようなさくひん。すごく短い場面を描いた超短編ですが、パンツの緑色が脳裏に焼きいついて、わかるわかると頷いてしまう。瞬発力秀でる作品です。

「会いに行く」 まゆみ@
た…たらはさんが……サラダ記念日に……。何げに短歌も素敵だからずるいぞ!これ何度も見てしまうぞ!

というわけで、みなさん本当にお疲れ様でした! ベリショを読むのはこれで4回目か5回目。回を重ねるごとにみなさんの実力がどんどん増しているのがわかって、ベリショはSS界でもちょっとした地位を確立した感がありますよね。それ納得です。近いうちに坊ちゃん文学賞と並ぶ「ベリショ文学賞」ができるのではないか?そんなことも全然夢ではないような、ベリショの勢い。素晴らしいです。しかもこの刊行ペース。編集陣、寝てますか? 大丈夫ですか? 心配になるレベルです。でも今回も、さらに本当に面白かったです。全部読んで、大きなお世話かもしれませんが、勝手に私(かとう)の一番のお気に入りを、悩みに悩んだ末、選出させていただくと(まじで10作品くらいは同列に好きだった)、新出概出さんでした! もう! すごかった!

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